大久保賢一(映画評論家)

映画「牛久」には、異なったカメラによる二種の映像が組み込まれている。ひとつはもちろん、証言者たちが顔を出し、名前を明かして語る面会室の映像だ。隠しカメラで撮られたこの映像は、理不尽な状況に置かれ、証言が招く更なる危険を覚悟の上で語る言葉の重さを伝える。そしてもう一種の記録映像は、証言者が起こしている訴訟のために弁護士が「召喚」(subpoenaed ) し、裁判所が命じてもたらされたものだ。これはこの施設、牛久の「東日本入国管理センター」が常時、記録して保管している「資料」だろう。抵抗する証言者を係員が大声で威嚇しながら数人がかりで拘束しようとする長い時間。怒声の中に「制圧 ! 」という大声がある。この「業務用語」。この場面に、「個人」を消した係員の身体と言葉に、システムと強圧によって「他者」を排除しようとする「国家」が現われる。これがニッポンなのだ。